1月10日
唯我独尊か一蓮托生か
朝早めにホテル内のレストランに朝食を取りに行くと、ホテルの庭でクジャクが放し飼いになっていた。小さいころに見たクジャクとは違い、かなり敏捷な動き。半野性なのか。コーヒーを多めに飲んで出かける。
1つだけまだ買っていないお土産。それはキューバの名物Cigar。ホテルの売店ものぞいてみたが、種類が少ないうえ、価格も高い。午前中、少し時間があるので旧市街の工房へ葉巻だけを買いに行く。Maleconを歩くこと30分強。買う銘柄は決めてあった。カストロ議長お気に入りだったというCohiba。キューバの葉巻の代名詞でもある。キューバではアメリカ発行のクレジットカードは使えないが、他の国で発行されたものなら大丈夫。カードで支払おうとしたら、「100ドル以上でないと受け付けない」と言われてしまう。仕方なく現金で。
部屋に戻ったら電話が鳴っている。旅行社の女性がロビーにいるという。会いたいというのでまたロビーに引き返す。手続きや時間にルーズなのは「これがキューバ流」。今回、私と仕事をして「いろんなことを学んだ」。政府と会合を持って旅行業のサービス向上に努めているところだ、などと笑顔で語る。しかしあまり悪びれた様子もない。これがラテン気質なのか。
最後の最後、迎えのドライバーだけは時間通りに来た。真っ赤なHyundaiの軽自動車タクシーに乗って空港へ。かなり遠い。来るときは夜だったし連れと話をしながらだったから、こんなに遠いとは思わなかった。いい天気だ。しかしそれですべてを許しそうになってしまうのがいけない。30分ほどぶっとばして新しいTerminal 3へ。来るときは自由席だったが、今回はきっちり座席指定。乗る便によって違うのだろうか。
Immigrationはなぜかかなり厳しい。外に出るだけなのに。どこに住んでいるのか、職業は何かなど、目つきの険しい男性に質問される。搭乗券だけではなく航空券そのものの提示も求められた。Lonely Planetには絵画や美術品の持ち出しが厳しくチェックされると脅してあったが、何のことはない、通常のX線検査だけだった。出国税は20ドルとLonely Planetにはあったが、25ドルに値上げされていた。免税店にも葉巻はあったが、免税のくせに市中より高いしやはり品数がない。工場で買うのが一番いいようだ。
狭く小さな飛行機に乗り込む。高度はそれほど上げず、地上の景色がよく見える中途半端な高度で飛んでいる。キューバの島の北端に沿って西へ。しばらくしたら海しか見えなくなった。機内サービスは来た時のサンドイッチがコッペパンに似たパンに変わっていただけ。甘いお菓子も同じだった。
メキシコ時間で15時15分、カンクンに到着。入国審査はびっくりするぐらい長い列。後ろに並んだイタリア人のおばちゃん軍団の常識のなさにまたもや「ラテンって」と思いながら、じっと順番を待つ。後にも続々と人がやってくる。ちょうど到着のラッシュ時間のようだ。従って入国審査はハンコを押すだけ。
次が緊張の税関。Lonely Planetによると、カンクンの税関では葉巻を見つけるのに必死らしい。審査のところにボタンがあり、青なら素通り、赤ならすべての荷物チェック。おそらく何人かに一人で当たるのだろう。私の並んだ列はずっと青ランプが続いて嫌な感じ。と、私の直前の人が赤ランプ。さっそく係官が「葉巻は持ってないか」とやっていた。当然私は青ランプ。すっと通り抜ける。
空港を出てホテルまでは自力でたどり着かないといけない。カンクンのガイドブックなど何も持っていないから、ホテルからもらったメールに書いてあった手順を頼りにするしかない。まずはPuerto Juaresという港に行かねば。そのへんのおじさんたちに聞くと、タクシーなら40ドル前後。高い。でもシャトルサービスというのあり、それなら12ドルまたは95ペソという。迷わずシャトルサービスへ。
大きめのワゴン車に、乗客がいっぱいになれば出発するというもので、幸い私が一番最後。一番広い助手席に乗る。キューバの感覚で、こんな観光地ならドルを使えるだろうと思っていたので、空港で両替すらしなかった。1ドルが何ペソになるのか、さっぱり見当がつかない。さっきのレートでは12ドルが95ペソだから、1ドル=7.9ペソ。しかしこれはぼったくられている可能性があるし。
そんなことを考えながらもワゴン車は快適な広い道を飛ばしている。走っている車はほとんどがアメリカ車。まるでニューヨークを走っているみたいだ。いわゆる「ホテルエリア」に入ってさらに驚く。ないホテルチェーンがないというぐらい、豪華な建物がびっしりと並ぶ。しかもでかい。よく過当競争にならないものだ。いや、なっているのかもしれない。道路沿いにはMcDonald、Subway、そしてOffice Depo。この分なら、探せばStarbucksやStaplesもあるに違いない。
物はないけれども自分たちの考えを貫き、アメリカの影響を排除しているキューバ。物質的豊かさよりも精神的自由の方を選んだ国。そして、物質的には豊かだけれどもその国らしさをまったく感じないカンクン。アイデンティティよりも経済を選んだ国。
どちらが幸せかなんて言えない。それぞれの国民が選ぶことだ。観光客相手のレストランに行ってもメニューに載っている料理が出せないのがいいのか、金さえ出せば何でも手に入るのがいいのか。アメリカ企業の広告、店、商品がほとんどないのがいいのか、アメリカの属国になったかのごとくアメリカ製品にあふれるのがいいのか。カンクンでは日本車すらあまり見ない。国境を接しているのだから仕方ないのだけれど。
そう考えるとキューバは貴重だ。あれほどアメリカを感じない国は、いまやほとんどない。あとは北朝鮮ぐらいじゃないか。あの体制が長続きするとは思えない。何といっても地理的にアメリカに近い。フロリダからわずか150キロ。カンクンまで500キロ程度。そういう意味ではまだ「アメリカ」がないキューバにこの時期に行っておいて正解だった。ちょうどベルリンの壁が崩壊する半年前、東西ベルリンを訪れた時のように。
車はホテルを回りながら客を下ろすこと約1時間。やっと港に着く。高速船が出るところだった。船内に乗り込んで料金を払う。9ドルというので10ドル札を出したらかなり考えてから60ペソが返ってきた。1ドル=60ペソ?そんなわけはない。さっきのレートと違いすぎる。う〜ん。
夕焼けが異常なほど美しい。いや、怪しい。ローストビーフの切り口のような、グラデュエーションがかかったピンク色。快適な船内でそれがどんどん黒になっていくのを眺める。
暗くなってからIsla Mujeres(イスラ・ムヘーレス)に到着。カンクン沖15キロの海上に浮かぶ小さな島。Mujeresとは一般的に女性、この場合は女神を指すらしいので、「女神島」とでもいう意味か。
以前ネットで見た島の地図が頭に入っていたし、小さな島だからそれほど迷うこともなかろうと、船着き場から歩き出す。南を向いた魚の形をしているこの島。しっぽに当たるところがホテルエリア。そこにビーチがある。10分ぐらいで「Hotel Cabana Maria del Mar」に到着。思っていたよりこぢんまりしている。
フロントでのレートが1ドル=9〜10ペソ。これがほぼ公定だろう。ということは高速船は4ドル程度。シャトルはやはりややぼったくり。やっと納得がいく。部屋はビーチに面した3階建ての1階。部屋にはテレビも電話も時計もない。あるのはベッドと冷蔵庫だけ。仕事をするホテルではなく、休息のためのリゾートホテル。これが正しいのだろう。
荷物をほどくと腹が減ってきた。夕食を食べに町の方に行ってみる。やはり観光客がよく歩く通りは賑やかだ。一通り店をのぞいてメニューを見て、イタリアンの店に入る。Superiorというビール2本とカルボナーラ。これで60ペソ。パスタがあんまりにも少ない。そういえば朝食と機内食を除けば何も食べていない。ハンバーガーを1つ、隣の屋台で食べる。
これでやっと満足したのでホテルに帰ろうとしたら日本語で名前を呼ばれる。あれ?声の主はSIPAに付属するEast Asian Instituteのフェローの人だった。奥さんと一緒にツアーに入っていて、今夜が最後の夜だという。私は最初の夜。こんなところで出会うなんて運命的ですよね、と既婚者と話す。
そういえば昨年のペルーでも別のフェローの人に会ったんだった。広いようで狭い世間だ。
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