1月5日
セスナ初体験
ナスカは昼を過ぎると風が出て砂ぼこりが舞うので、フライトは午前中のみ。また地上絵を見るのも朝か夕方の斜めに差し込む太陽光線の方が見やすいという。私たちは8時半には飛行場に行っていたが、何だかんだと待たされる。その間、日本語のビデオも見せられる。緒方直人ナレーションのTBS「世界遺産」だった。
しかし駄作のビデオだなあ、と地上絵とは関係のないところで感心してしまう。単にヘリで地上絵を撮っているだけ。さかんに「ナスカの砂漠に」「荒涼とした大地に」などと同じボキャブラリーが出てくる。これを撮るクルーはきっとビジネスクラスで来て、ロスあたりでストップオーバーして休みまくったんだろうなと思ってしまう。
なぜマリア・ライヘの話が出てこないのか。なぜ地上で撮った映像がないのか。なんだかお手軽な取材だなぁ。
こんな小さな空港なのに、空港税なるものがあって5ソル(=約170円)払う。こんな小さな空港なのにTシャツ売りや絵葉書売りがやってきてさかんに売り込む。しかし品物にバラエティがない。2人ぐらい品物を見たら、あとは全部同じ。もうちょっと商売っ気を出しても良さそうなものだろう。それがないのもペルーの一部か。
インカノハカ
結局、時間があり過ぎるというので、近くの「インカの墓地跡」に行くことになる。ガイドは、だれが教えたのか「インカノハカ」と日本語で言ってくれる。墓といっても結局は盗掘跡。数年前まではミイラや骨などが地上に散乱していたらしい。それを96年になんとか墓らしく見せるようになっただけという。
四角い穴の中に鎮座ましますミイラたち。太陽を信仰していたので、次の世での再生を願って南に向いて座らされて埋葬されたという。別に黄金があったわけでもなし。しかしミイラを巻いていた織物が高く売れたらしい。どうしてこう、盗掘だけは世界共通なのだろう。
しかし周りを見渡しても、少しの木々があるだけで、周辺に村があったとも思えないし、単なる平地になぜ埋葬したのかもよく分からない。インカの時代もわずか450年前。そんなに風景が変わったとも思えないのだが。
太陽は真上から照りつける。砂漠の真ん中。じりじりと暑い。
う、うぇぇ〜〜
ナスカの地上絵(Nazca Lines)を見るためには、当然、空から見ないといけない。滑走路と駐機場があるだけの小さな飛行場からパイロットも含め6人しか乗れないセスナで飛び立つ。プロペラの振動に合わせて機体も揺れる。たまたま一緒になった日本人女性は、もう顔が青ざめている。
ぶわりと飛んだ6人乗りセスナ。私は2列目右側。ヘリに乗ったことがあるので、それよりは安心していられる。結局飛んだのが昼前ぎりぎりだったので、かなり気流が悪くなっているらしく、所々で機体が上下に揺れる。ちょうど車で小さな橋をけっこうなスピードで渡った時のような、ぶわんと突き上げられるような感覚。これが2度ほどあった後、私の左に座っていたくだんの彼女はがっくりとうつむいてしまった。
しばらく砂漠の上を飛んでいると、パイロットが「クジラ」と教えてくれる。最初の絵だ。しかし目らしきものは分かるが、全体がさっぱり分からない。そのうちにもう見えなくなった。左右に座っている人に同じように見られるよう、セスナは旋回を繰り返す。左の彼女、まったく絵を見ていない。ひたすら耐えている。頼むから吐かないで。
有名な宇宙飛行士、サル、コンドル、ハチドリが現れると、おお〜〜という感じ。しかし光線の具合なのか、やはり分かりにくい。マリア・ライヘが訴えたように、なるほど地上絵は消えつつあるのかもしれない。
こうした「絵」はむしろ例外と思えるほど、無数の線が走っている。長いものだと数キロに及ぶという。しかも直線。丘や小さな山をわざわざ乗り越えているものまである。
宇宙から来る人たちへのシグナルだとかUFOの飛行場だとか言われている。その根拠は、あまりに絵が巨大すぎて空からでないと見られないというものだ。しかしそれは現代人の浅知恵。先人たちは私たちよりもずっと天文や地理を知っていた。平均的に。別に空から見なくとも、これだけの巨大な絵を書くことは十分可能。むしろ、地上に大きな絵を書くという発想そのものがおもしろい。しかもハチドリやサルなど、森林がないといない動物が描かれているということは、以前はもっと森が豊かだったということか。
そのほか、カレンダーだとか宗教儀式のためのものだとか言われている。しかしカレンダーを地上にlこれだけ巨大に描く意味が分からないし、一見ランダムに並んでいる絵に宗教的な意味があるとも思えない。絵はむしろ、若い人が測量技術を修得するための練習材料とか、結構実際的なものだったかもしれないよ、意外に。
それでも。実際に目の当たりにすると、やはり感慨深い。よくもまあこんなものを作ったものだ。こんな空の上からでも、地上絵に対するいたずらの跡が見えて、墓地跡とともに悲しい。なんて人間は浅ましいのだろう。
あっという間の35分間。隣の彼女も無事耐え切ったようだ。しかし乗ったかいがあったのかどうかは分からない。
セビッチェ、グラッチェ
そんな彼女の要望で、ペルー名物セビッチェを食べることになる。魚介類を酢ベースのソースで和えたもので、ペルー版酢の物と言えなくもない。アサリのスープつき。酢の物なのにチーズが入っていたり、甘く煮込んだカボチャなども入っている。主役はコハダに似た魚だった。
私などは腹が減っていたうえ、懐かしい酢の味にすっかり突撃してしまっていたが、言い出しっぺの彼女は時おり一口つまむだけ。相当気分が悪いようだ。申し訳ないけど、私は堪能してしまった。グラッチェ。
またしてもオルメーニョのバスでリマに引き返す。
<-- 前日に戻る Peruトップ 次の日に進む-->
|