1月11日
浮島
朝からボートでチチカカ湖に繰り出す。港から中型の船に乗って約30分。ウロス島に着く。島といっても天然の島ではなく、「トトラ」という葦に似た植物を乾燥させてそれを積み重ねただけの浮島だ。だから風に流されないよう、ユーカリの木で固定しているそうだ。
なるほど上陸して足踏みしてみるとふわふわしている。これもトトラ製の小さな家が10軒ほど。その屋根の近くにソーラーパネルがあるのが目を引く。これで電気を作り、テレビを見ているそうだ。観光客を待ちかねていたかのように女性たちがおもむろに土産物販売の商売を始める。しかしあまりやる気はないらしい。値段の駆け引きもそれほど厳しくもない。
飾り物を1つ買ったら、新聞紙で包んで、その上から十字にトトラで結んでくれた。ここでは何をするにもトトラらしい。抜いたばかりのトトラを見せてもらったら、色も感触も巨大なネギに似ていた。下の白い部分を剥いてみるとやはりネギのよう。
つい最近まで、移動手段もトトラで作ったバルサという船だけだったらしい。今ではさすがにモーターボートも使う。バルサに乗せてもらったら、船尻の心材にペットボトルが使われているのが見えて、感心するような、しかしなんだか寂しいような気分になる。それは観光客の勝手な感傷だろう。
女性がキスに似た魚を日に干し始めた。観光客に対するサービスというよりは、日常の生活の一部に見えた。こんな風景を見るのが一番うれしい。
天空の湖
チチカカ湖はモーターをつけた船が走る湖としては世界で最も高い場所(3850m)にある。南米最大の湖でもあり、面積は琵琶湖の約12倍。湖をペルーとボリビアの国境が走っている。ペルー側は入り江に囲まれた小チチカカであり、ウロス島もこちらにある。そこから出て大チチカカを走ること2時間半。こちらは天然の島タキーレに着く。
集落は島の中央部、一番高い部分にあるため、船を降りてからかなり急な道を歩かないといけない。酸素が希薄な上、太陽が真上から照りつけるので、かなりしんどい。前日から少し体調を崩していたこともあり、集落の広場に着くまで小1時間かかってしまう。
しかし上るにつれ、空と湖の青さがよく分かるようになる。この青さ。どんなカメラを使ってもおさめられないと思いつつ、シャッターを切る。それに何より静寂。自分の吐く息と、ときおり鳥のさえずり、そして風に揺れる木々のざわめきが少し聞こえるだけ。透明な水晶でできたような風景だ。
島のレストランで昼食を取るが、調子が悪く食欲もあまりない。それでも体力の衰えが一番恐いので、無理にでも食べる。ムニョというハーブティーを飲んで少し気分がおさまった。
この島の一番高いところは4000mあるという。船着き場に行くにもさらに急な階段。その途中で小さな女の子が自分で編んだと思われるミサンガを買ってと言ってきた。恥ずかしそうな、それでいてしっかり商売しようというような態度が気に入って、中から落ち着いた色調のものを1つ買う。
船着き場につくと本当に水は透明。その透明さが空のあの青さをきれいに反映するのだろう。プーノの港に帰るまでは約3時間。湖面は鏡のようなベタ凪。その中を単調なエンジン音だけが響き、傾きかけた日を追うように引き返す。
プーノ、プーノ
ガイドに無理を言って、プーノの市内を案内してもらう。といっても歩いて数分もすれば目抜き通りを抜けてしまう。アルマナ広場とピノ広場、その両方を結ぶ通りがこの街のすべて。土産物屋をいくつかのぞいてみるが、売っているものにバリエーションがない。どこに行っても同じようなものを売っている。商売っ気がないのか。鉄道駅近くの市場にも行ってみる。ここも活気があっておもしろい。本を売っているのはすべて古本。このあたりでは新しい本は高すぎて手に入れにくく、ほとんどの人が古本で間に合わせているとガイドが言っていた。
プーノは「フォルクローレの都」と言われていると聞いたので、その通りに面したレストランで聞いてみようと夕食を取る。しかしいつまでたっても始まるどころか、客が私しかいない。結局、「客が集まらない」との理由で演奏は聞けずじまい。私のせいではない。
そうこうするうちに雨も降って来た。風もかなり強い。湖畔のホテルまで三輪タクシーで帰るつもりだったが、それでは風邪をひきかねない。やむなく普通のタクシーに乗る。さすが標高が高いだけあって、真夏だというのにこの寒さ。昼間はあれだけ暑かったのに。
昼間は紫外線に降られ、夜は雨に降られ。呼吸は不自由だし、体は重いし。ままならないのが少し悔しい。
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